知る 人

焼酎造りで、人ができることは、ほんのひとにぎり。 米の偉大さ。水の尊さ。そして酵母のありがたさ。長く焼酎造りにたずさわるほど、人間ができることは、ほんのひとにぎりしかないのだと感じます。 でも、そのひとにぎりが、仕上がりの味を大きく左右する。だからこそ造り手たちは、米から、麹から、もろみから、蒸留釜から、目がはなせません。 その日の気温や気圧の変化によって、
「生き物」のように状況を変えていく。プツプツというもろみの声に耳をすます。温度計をにらむ。空を仰ぐ。何度も、何度も、釜をのぞきこむ。蒸留したての焼酎から、ふわっと香りが立ち上る、その瞬間まで。 造り手にできるすべてを、積み重ねていく先にしか、おいしい本格米焼酎は生まれません。
藤本一見

「誰よりもうまい焼酎を造りたい、 誰よりも焼酎を極めたい。」

焼酎造りのすべての工程を統括、現場の総責任者にあたるのが「杜氏」。藤本一見は、高橋酒造の「杜氏」の一人。すべての技術に精通した、焼酎造りのエキスパートです。 焼酎造りは、経験がすべてといっても過言ではない世界です。もろみの温度調整などは、勘が頼り。自分を信じるしかありません。精魂こめて、万全を期してー。それでも、ほんのわずかに味わいが違うこともあります。そんな時、藤本は、前杜氏から言われた「焼酎造りは何十年やろうとも、わかるものじゃない」という言葉を思い出すといいます。 「確かに、焼酎造りは底が見えません。人や機械の力だけではなく、むしろ酵母の力が大きく、その酵母を手助けしてやるのが私たちの仕事。まさに生き物が相手だから、天候や気温によって状況は刻々と変わります」。 球磨焼酎を代表するトップブランドとして、「白岳」・「しろ」がおいしいのは当たり前、常に上を目指すことが杜氏には求められます。「満足してしまったら、成長はありません。うまいものを造りたいという気持ちが大切なんです」。誰よりも焼酎を、焼酎造りを愛する者に課せられた宿命。「いつかの日か、焼酎造りを極めたい、そう思っています」。